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その日成嶋はいつものようにバイトに来ていた。
このところ成嶋は生活態度を改め真面目に仕事に励んでいた。
バイト先であるカフェ『キャピタリア』ではもちろんのこと、『キャピタリア』が入っているデパート内でも目を付けられないようにおとなしく勤めていた。
“あの件”があって以来、成嶋の生活態度は大きく変わった。
それは主にエリカと交わした“約束”が大きく影響していた。
いや、“協定”もしくは“任務”と言ってもよかった。
成嶋がエリカから与えられた使命は“山ピー”を近くで観察、もしくは接触し、逐一エリカに報告するというものだった……。
ここで言う“山ピー”とは『キャピタリア』で働く山下賢二のことだった……。
もちろん日頃から山下には常時エリカの部下達が張り付き、その動向を見張っていた。
だが、山下は用心深く全く隙を見せなかった。
その為、成嶋がバイト中に山下と仲を深め、山下から“山ピーの魔法の言葉”の情報を聞き出そうとしていたのだ。
エリカの知る限り、現段階での“マスター”は山下に間違いなかった……。
本来であればエリカは直に山下から情報を聞き出したかった。
普段なら部下の何人かに山下の後を尾行させ、人気のない場所で車に押し込んで拉致する。
そして邪魔の入らない場所で拷問すればいいだけの話だった……。
だが、今回ばかりは話が違う。
下手に山下を刺激すれば“山ピーの魔法の言葉”によって命の危険に曝されてしまう……。
現に以前エリカは当時の“マスター”を拷問しようとして、部下を数名失っていた……。
だからあえて成嶋を選んだ……。
自分の部下の命を失うぐらいなら……。
エリカは人の命を天秤に掛け、そして成嶋に交換条件を出し、利害を一致させたのだった。
では、成嶋の出した交換条件とは何だったのか……?
それは……。
【続く】
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