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「報告がある」
そう言った燿は遠いところを見ていたが、フッと短く笑った。
「俺、内定決まりました」
俺たちに告げた燿の表情はとても清々しい。
「ない…てい?」
突然の告知に俺と統吾は一瞬ぽかんと間を開けてしまった。
だが、すぐに嬉しさが体から沸き起こり、俺はそのまま燿の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「よくやったな」
「おめでとう!」
統吾も飛んで喜び、燿の肩を抱く。
「どこで働くんだ?」
俺はすかさず問う。が、当然の質問なのに燿は気まずそうに頬をかいた。
そして、照れながら俺たちに視線をずらす。
「…父が務めていた会社です」
燿が言うには、その会社はオッサンの前にも一人欠員がでたらしく、人手が足りていないとのことだった。
「欠員ね…」
俺の頭にある男の姿が過る。
それは統吾もわかっていたようで、納得したように「あの人かな」と頷いた。
そんな俺たちのリアクションに燿は不思議がる。
「悟さんたち、知ってるんですか?」
だが、俺は「いや」とすぐに否定した。
「"生前は"知らない」
その答えに燿は一瞬きょとんとしたが、途端に笑い出した。
「やっぱり、悟さんたちは面白いです」
そんな明るい笑い声に俺も統吾も釣られた。
「ーーでは、俺はこれで」
区切りがいいと思ったのか、燿は家に入ろうとせずそのまま俺たちに背を向け立ち去った。
「達者でな!」
統吾は燿の背中に声援を送る。
それが耳に入った燿は、途中でこちらに顔を向けた。
「燿」
俺も目が合う彼にそっと鼓舞した。
「お前なら大丈夫だ」
一年前のあの日と同じ言葉をかけると、燿はハッとした後、目を細めて微笑んだ。
彼が俺たちに初めて見せた、本心からの笑顔だった。
「…やっぱりオッチャンの子供だね」
小さくなる燿の背中を見つめながら、統吾は頭に腕を回す。
「それは俺も思っていた」
燿もまた、オッサンのような優しく逞しい人間になれるだろう。
今の彼を見てそう確信していた俺たちは無意識に空を仰いでいた。
ーー空に広がる羊雲が赤く染まる。
庭に咲いた鬼灯の花は、あの日と同じく今日も風に揺れていた。
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