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電車に乗ってから、かれこれ2時間は経つ。
朝が早かったからか、私と柄沢君以外は眠っていた。
席を向かい合わせにして話し込もうとした途端、3人とも寝息を立て始めたのだ。
高爪君なんて、柄沢君の膝を枕にしている。
「誘ってきたこいつらが寝ているとはな」
柄沢君は私の隣で寝ている種岡君とあすなちゃんを横目で見た。
「こいつらが起きてないと何処で降りるのかわからねえよ」
柄沢君は呆れたようにため息をついた。
「終着駅だから問題ないみたいよ」
「なるほど、どうりで呑気にいる訳だ」
「柄沢君は眠くないの?」
「この時間ならとっくの前に起きてる」
「え、そんなに早起きしているの?」
この時間と言うが、電車に乗ったのは朝の6時過ぎだ。
たとえ1講目でも彼の家からなら時間がありあまるだろう。
彼の返答に驚いていると、柄沢君は少し間を開けてからまた続けた。
「弟の弁当作ってる…ついでに俺と親父のも」
その家庭的な発言に私はくすくすと笑った。
「いいお兄ちゃんだね」
そう褒めると彼は照れ臭そうに頭をかく。
「眠いならお前も寝てろよ」
「大丈夫。久しぶりの遠出だから、なんかわくわくしちゃって」
そう言うと、彼は「そうか」とまた肘をついて窓に映る風景を眺め始める。
ぶっきらぼうだけど優しい柄沢君。
少しだけだけれど、こうして2人だけの時間を過ごすのは私にとって貴重な体験だった。
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