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「ねえ、一緒に海に行かない?」
それはあすなちゃんの一言から始まった。
あれは今から一週間ほど前に、2人で遊んでいた時だったと思う。
だが、私は海と聞いてもなかなかピンと来なかった。
この街は内陸部だから、近くに海がないのだ。
「私の地元に行くのよ」
「ちょっと遠いけどね」彼女はそう付け足す。
言われて見れば、あすなちゃんの実家は港町。
ここから電車で3時間はかかるが、学生でも十分行ける距離だ。
「あの3バカも連れて行きましょ」
3バカ…そう言われてすぐメンバーが出てきたことは彼らに申し訳ないと思う。
しかし、あすなちゃんの地元ということは種岡君の地元でもある。
種岡君ならきっと2人を誘ってくれるだろうと思っていた。
けれども、柄沢君はこの旅行に来るつもりはなかったらしい。
「家のこともあるから俺はパスする」
そう言って、親にも旅行のことは黙っていた。
しかし、旅行のことを彼の親に告げた人がいた。
高爪君だ。
彼が仕事の手伝いで柄沢君の家に行った時、彼の親に旅行のことを伝えた。
そのことから柄沢君はむしろ親に「たまには思いきり遊んできなさい」と背中を押されたらしい。
柄沢君は頑固なところがあるけれど、親にそこまで言われたら折れるしかなかったのだろう。
柄沢君の親もそうだが、高爪君も柄沢君のことをよく理解している。
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