柄沢悟とオッサン

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今日も俺は、車で統吾の家に向かう。 国道沿いに植えている木もすっかり紅葉している。 「…さむ」 無意識にこの言葉が出るくらい、秋が深まってきた。 俺は店の横に駐車し、車に鍵をかけた。 統吾の家の前にはおもちゃカボチャで作られたハロウィンの置物が置かれている。 そのよくできた置物をまじまじと見ていると、誰かが店のドアを叩いた。 統吾だ。 しかも、赤ん坊を抱いている。 「さとりん、いらっしゃい」 統吾は赤ん坊をあやしながら、扉を開けた俺に微笑みかけた。 「見てみて。可愛いよな」 そうやって見せてくれた子は、自分の体より大きなピンクのウールの服に埋もれながら統吾を見つめる。 「小野田サナちゃんだよ」 「小野田…」 俺はちらりと横を見ると、スイートピーを持った赤ん坊の母親がいた。 「こんにちは」 小野田さんは俺にお辞儀をする。 統吾の家はリピーターが多い。 彼女を見てもわかるように、店の雰囲気や店員の人柄に惹かれて利用する人が多いだとか。 俺もその一人。 他の客ですら顔見知りになってきたのが何よりの証拠だ。 「じゃ、お母さんのところに帰えろうかー」 統吾は小野田さんにサナちゃんを渡す。 「また顔見せてね」 統吾はサナちゃんに手を振るが、サナちゃんはわかっていないのか不思議そうに統吾を見つめ返していた。 代わりに、小野田さんが彼女の手を持ち「ばいばい」と手を振った。 「ありがとうございましたー」 統吾の声と、店のドアについたベルが鳴る。 去っていく小野田親子を見て、統吾は何を思ったのだろう。 しみじみとした表情で小野田さんの背中を見ていた。
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