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今日の飲み会の名目は「失恋パーティー」ということらしい。
種岡の友達の友達――といっても俺から見たらただの他人だが、その人物が彼氏と別れたから、その心の傷を癒してあげたいと聞いた。
それで新たな出会いを求めて合コンかと思うとため息が出る。
しかし、今更文句を言っても仕方なく、俺はただただため息をついていた。
「――ほら、次はお前だぞ」
種岡が肩を叩いたので俺は我に返った。
斜め前の女が「亮太君マジ面白~い」と話しているので自己紹介でもしていたようだ。
まったくもって聞いていなかったが、それでも俺にメリットはあるとは思えない。
この慣れない場面に、俺は表情を変えずに名乗った。
「柄沢悟です」
「それだけ?」
「…よろしくお願いします」
あまりに短い自己紹介に種岡の「終わりかよ!」という声が聞こえるが俺は無視した。
俺は自己紹介が好きではないからだ。
「悟」と書いて「サトリ」と読むのだが、みんな「サトル」としか読まない。
一般的にはそうとしか読まないからしょうがないが、これには親父を怨みそうになる。
だから、名前を突っ込まれる前に終わらせたかったのだ。
統吾はそんな俺の名前を間違えないようにと「さとりん」と呼ぶのだが、正直やめてほしい。
それでたとえ「サトリ」と読まれやすくなったとしてもだ。
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