旭成次郎とマユリちゃん

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◆ ◆ ◆ 突然だが、あたしは散歩が好きだ。 特にイヤホンで外界からの刺激をシャットダウンしながら夕闇の中を歩くのがマイブーム。 こうしていると、自分が独りになったようで、少し淋しくて気分が落ち着く。 変わってるって言われるかもしれない。 でも、時々無性に独りで居たくなる。 特に何かあったとかそんなことはないが…本当に時々。 大学の講義が終わった後、あたしは今日もふらりと帰路とは違う道を歩いた。 耳に流れる曲はあたし好みの綺麗なサウンド。 だが、今聴きたいのはもっと人間の暗いところを全面に吐き出した深い曲の気分だ。 今はほんの少しだけセンチメンタルになりたい。 音楽機器のランダム機能で曲を飛ばしながら、あたしは人通りの少ない道に入る。 この曲、悟が好きそうね。今度奨めようかしら。 そんな呑気なことを考えながらあたしはふぅー…と空に息を吐いた。 あたしが吐いた息は白く、そのまま冷たい風に流れた。 晩秋にもなると日が落ちるスピードも早くなり、まだ5時だと言うのに街灯が燈った。 もうすぐ冬がやってくる。 あたしは冬が好きだ。 あの澄んだ空気と、肌を刺激する冷たい外気がいい。 そんな中をイヤホンをしながら静かな曲を聴く。 …これなら音楽を聴きながら歩くのが好きなだけかもしれないとふと思ったが、今は気にしないでおこう。 そんなことを考えていると曲が終わり、あたしは人通りのない道を抜けた。
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