高爪統吾と昔の話

15/27
前へ
/1361ページ
次へ
「刀也ー!!」 俺の声が木々に反響する。 しかし、刀也の声がするはずもなく、彼の代わりにカラスが鳴きながら空へ飛び立った。 本当にここでいいの? たまに自分…いや、総吾を疑いたくなる。 だが総吾に尋ねても彼はうんともすんとも言わない。 というのは、これが正解のはずなのだ。 もし間違っていたら、総吾が何らかの合図をしてくれるはず。 しかし、いくら腐葉土を越えても、草をかきわけても、刀也の姿はなかった。 空がどんどん夜に近づいていく。 どうしよう。このままでは俺が遭難する。 ミイラ取りがミイラになるって奴だ。笑えない。 そんな嫌な思考が頭に過ぎった時、俺はある物を見つけてしまった。 鞄だ。 しかも林の中に紛れ込むには真新しい、うちの高校の指定鞄。 多分、刀也の鞄だ。 俺の前に現れた総吾は黙ったまま指をさす。 だが、指した方向には何も見当たらない。 土が崩れてできた崖があるだけだ。 いや、これはもしかして彼が導いているのはこの下と言うことかもしれない。 薄暗くて崖の下は何も見えない。 まだ地形が崩れていない場所は急な坂になっているだけで慎重になれば降りれそうだ。 覚悟を決めた俺は笹の葉や太い蔦を握りながらゆっくりと坂を降りていった。 切れるなよ。いいか、絶対だぞ? 命綱とも言える笹の葉に俺は語りかけるように呟く。 地面につくまでもう少しだ。 ぎゅっと笹の葉を握り直す。 その笹が根っこごと抜けるなんて誰が想像したか。 変な空気を読んだ笹が抜けた反動で、俺は足を滑らせそのまま尻から落下した。
/1361ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11342人が本棚に入れています
本棚に追加