高爪統吾と昔の話

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「いってー…」 俺は尻を摩りながら歯を食いしばった。 幸いにも大きな怪我はなかったが、流石に尻は痛い。 座り込んだまま動けず、そのまま空を見上げた。 辺りはどっぷり暗くなり、月が背の高い木から顔を出している。 俺、なんでこんなところにいるんだろうな。 月を見ているとそんなことまで考えてしまう。 「刀也ー…」 力なくもう一度友人の名を呼ぶ。 どうせ返事はないだろう。 諦めながら俺は深くため息をついた。 だが、返事はかえってきた。 「誰かいるのか?」 どこからか聞こえる声に、俺は竦み上がり息を呑んだ。 前方に人影が見える。 もしかして、犯人? いや、幽霊? 生きているのか死んでいるのかすらわからない影に、俺は恐怖で言葉もでない。 その影はゆらゆらとこちらに近づき、俺に顔を寄せつける。 やばい! 直感した俺は目を強くつぶり、顔を背けた。 「高爪?」 その拍子抜けた声に、俺も恐る恐る目を開ける。 「お前、なんでこんなところに…」 「と、刀也?」 暗くてよく見えなかったが、その影は俺が捜し求めていた刀也そのもの。 「ほ、本物?」 つい疑いをかけたくなったが、刀也は呑気に笑う。 「本物だよ。本物の花加刀也」 「しっしっし」と歯を見せる刀也に、俺は胸を撫で下ろした。 こんな笑い方をするのは刀也くらいだからだ。 「お前! なんでこんなところにいるんだよ!」 俺は怒り気味で刀也の肩に掴みかかる。 けれども、怒りの気持ちはすぐに消え、刀也が無事だったことのほうが大きくてもう泣きそうだった。 そんな俺に刀也は「ごめんごめん」とぽりぽりと頭を掻いた。
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