高爪統吾と昔の話

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刀也には視えていない。 今、俺らの前に立ちはだかるように、彼女が道を塞いでいること。 ぶら下がっている彼女にはそんな面影ないだろうが、生前の彼女は色白で、髪に艶があって、おしとやかで… こんなにも、美しい。 彼女は俺に言う。 「自殺じゃないんだって」 彼女は、殺された。 だが通り魔事件とは関係ない。 「闇金っていうのかな…男に騙されて借金背負わされ、それで」 保険金賭けられて殺された。 それが、先週の土曜日。 刀也は死に行く彼女に会ったんだ。 そこから、たまたま刀也と波長が合ったのか。 それとも、彼女が周りと波長を合わせたのかはわからない。 だが、これだけは言える。 彼女は、自分のことに気づいて欲しかった。 自分が、こんな淋しい場所で一人でいることに。 「刀也に謝ってる…“体を借りてごめん”って」 あと、最後に人と話せて嬉しかったって。 刀也はその大きな目を見開き、俺とぶら下がっている彼女を何度も見た。 いきなり、そんなことを言われて信じてくれる訳がない。 そんなのわかっている。 「俺、視えるんだ。幽霊。だから、あの人の声も聞こえる」 俺のことは信じなくていいから、彼女のことは信じてほしい。 その時、心の底から思ったんだ。 しかし、そこで俺は体力の限界だった。 「高爪?」 刀也はいきなりひざまづく俺にさぞびっくりしただろう。 死臭に堪えれなかったのだ。 俺は隣の木までふらふらと歩き、その場で嘔吐した。
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