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――現実に戻った俺は、ふぅと息をつき、写真立てを置いた。
懐かしい。
俺が初めて総吾の力を使ったのも、この力で人を助けたのもあの出来事からだったんだ。
「お前すげーじゃん。“視える奴”なんてそうそういないよ」
本来なら視えない人の姿が視え、聞こえない声が聞こえる。
刀也はそんな俺の力を信じてくれた。
そして、俺に言う。
「高爪はその力であの人みたいな人をいっぱい救えるんだな。お前にしか出来ないことがあって本当に羨ましい」
あの時のにこやかな刀也が忘れられない。
「高爪はその力で困っている人を助けてやれよ」
俺のモットーは、どうやら彼の言葉からきていたようだ。
俺をここまで導いてくれたのは、間違いなく刀也だ。
「ーー久々に刀也に会いに行こうか」
俺の案に総吾は深く頷く。
俺はアウターを羽織り、階段を下る。
一人でこっそりと出るつもりだったが、流石というべきか母ちゃんには気づかれてしまった。
「あんた、こんな時間にどこへ行くのよ」
「刀也のとこ」
そう言うと、母ちゃんは一瞬目を見開いたが、すぐに穏やかになる。
「手ぶらじゃ悪いから、これを持って行きなさい」
母ちゃんが渡したのは2本の缶コーヒーだ。
それを小さなコンビニ袋に入れて俺に持たせてくれた。
「刀也と一緒に飲んでくるよ」
「それがいいわ。でも早めに帰ってくるのよ」
見送る母ちゃんを背に、俺は玄関のドアを開けた。
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