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「なになに、やっぱり地縛霊とかいるのか?」
「うん…まあ、そんなとこ」
俺の顔色の悪さから判断したのだろう。
刀也は「うげ~…」と顔をしかめて俺から視線を反らす。
「やっぱり死んだら誰でも幽霊になるんかな」
「わかんない。死んだことないもん」
「そりゃそうだ」
刀也は笑いもせずに腕を頭にまわす。
信号を待っているのは俺と刀也、そして携帯電話をいじっている女の子だ。
勿論地縛霊はノーカウントだ。
あれは信号というより別のモノを待っている。
そんなことも知らずに、刀也は言った。
「もし俺が死んだらきっと格技場にいるんだろうな」
「格技場? なんでまた」
「だって剣道したいじゃん? 俺、まだまだ強くなりたいし」
刀也は目を細めて歯を見せる。
信号が変わったのはちょうどその時だ。
俺たちより先に女の子が横断歩道を渡る。
話し込んでいた俺たちはそれに気づかずにちょっと出遅れた。
それが、刀也の運の尽きだった。
俺たちに気づかないトラックが交差点を右折する。
完全にトラックの運転手の不注意だ。
俺も刀也も迫りくるトラックにその場で立ち止まった。
しかし、携帯電話をいじっていた女の子はそれに気づかなかったのだ。
彼女が顔をあげた時はもう遅い。
女の子は恐怖のあまりに足が震え、呆然と立ち尽くすことしかできない!
トラックの運転手と女の子の目が合う。
“もうだめだ”
見開かれた目にはきっとそのようなことを思っただろう。
俺もそうだった。
怖がりな俺は、彼女を助けようという勇気はなかったんだ。
たった一人、刀也を除いて。
「危ない!」
刀也が鞄を放り投げ、我を忘れて女の子に突っ込んだ。
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