高爪統吾と昔の話

25/27
11316人が本棚に入れています
本棚に追加
/1346ページ
「なになに、やっぱり地縛霊とかいるのか?」 「うん…まあ、そんなとこ」 俺の顔色の悪さから判断したのだろう。 刀也は「うげ~…」と顔をしかめて俺から視線を反らす。 「やっぱり死んだら誰でも幽霊になるんかな」 「わかんない。死んだことないもん」 「そりゃそうだ」 刀也は笑いもせずに腕を頭にまわす。 信号を待っているのは俺と刀也、そして携帯電話をいじっている女の子だ。 勿論地縛霊はノーカウントだ。 あれは信号というより別のモノを待っている。 そんなことも知らずに、刀也は言った。 「もし俺が死んだらきっと格技場にいるんだろうな」 「格技場? なんでまた」 「だって剣道したいじゃん? 俺、まだまだ強くなりたいし」 刀也は目を細めて歯を見せる。 信号が変わったのはちょうどその時だ。 俺たちより先に女の子が横断歩道を渡る。 話し込んでいた俺たちはそれに気づかずにちょっと出遅れた。 それが、刀也の運の尽きだった。 俺たちに気づかないトラックが交差点を右折する。 完全にトラックの運転手の不注意だ。 俺も刀也も迫りくるトラックにその場で立ち止まった。 しかし、携帯電話をいじっていた女の子はそれに気づかなかったのだ。 彼女が顔をあげた時はもう遅い。 女の子は恐怖のあまりに足が震え、呆然と立ち尽くすことしかできない! トラックの運転手と女の子の目が合う。 “もうだめだ” 見開かれた目にはきっとそのようなことを思っただろう。 俺もそうだった。 怖がりな俺は、彼女を助けようという勇気はなかったんだ。 たった一人、刀也を除いて。 「危ない!」 刀也が鞄を放り投げ、我を忘れて女の子に突っ込んだ。
/1346ページ

最初のコメントを投稿しよう!