高爪統吾と昔の話

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刀也が押し飛ばした衝撃で、女の子はなんとかトラックの進行方向よりは突き放された。 その光景だけが目に飛び込んだが、臆病な俺は目をつぶってしまった。 タイヤとコンクリートが摩擦でえぐれる鋭い音が耳に突き刺さる。 次に聞こえたのはドンッ!!という衝撃音だ。 恐る恐る目を開けた時、俺はここが地獄かと目を疑った。 俺の足元には、赤い液体が流れている。 その深紅の流れをたどると、少し離れた場所で刀也が倒れていた。 「刀也?」 呼んでも刀也は起き上がることはない。 「刀也、刀也!」 俺は無我夢中で彼の体を抱き上げた。 しかし、刀也は目を開けたままぴくりとも動かない。 いくら体を揺すっても彼の頭から「カラカラ」と陶器のような何か割れた音が聞こえるだけだ。 それが頭蓋骨が割れている音だとも知らずに。 女の子が悲鳴をあげる。 「救急車ー!!」と誰かが声を張る。 トラックの運転手は愕然としている。 だが俺の目には何も見えていない。何も聞こえていない。 俺の視界に入るのはただ一つ。 あの地縛霊だ。 地縛霊が声を殺して何か言っている。 だが、俺にはわかっていた。 あいつ、笑っていやがる。 刀也を見て笑っていやがる。 「仲間が増えたね」 にたつくそいつは、俺に聞こえるようにそう言って消えていった。 あいつが何をしたかわからない。 むしろ何もしていないかもしれない。 悪い偶然がいくつも重なって、それがたまたま刀也に降り懸かっただけ。 あいつの“仲間がほしい”という思いが叶っただけだ。 それでも俺は悔しかった。 「刀也、刀也…」 こんなに近くにいたのに、刀也を守れなかったこと。 こんなに近くにいたのに、何もできなかったこと。 悔しくて悔しくて、刀也の名前を何度も何度も呟いた。
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