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「一体、どういう風の吹き回しだ?」
今日の彼は最後に会った日とは打って変わり機嫌がいい。
「何を企んでやがる」
俺は疑いの眼差しを向けると、統吾は「なんもないよ」と軽くあしらった。
「やっぱさ、“心機一転”って奴? 色々と考えたけど俺は俺だし、これからも頑張ろうって思ってね」
いつもの屈託のない顔で統吾はえへへと俺に微笑みかける。
その様子を見て、俺は心から安堵した。
なんの変哲もない、普段の統吾だったからだ。
「ありがとう。悟のお陰だよ」
そして、いきなり澄ました顔で統吾は俺に言う。
そんな突然改まって言われるものだから、俺も照れてしまい、その感情を隠すように頭をかいた。
「じゃ、俺は仕事があるから」
統吾は俺に手を振り、家を後にする。
外の雪の多さは変わらないため、統吾はバイクではなく歩いてきたようである。
寺の境内を雪を踏みながら彼は鼻歌を歌う。
その時、統吾が後ろを振り向いたように見えた。
だが、その統吾の髪は白く、まるで俺にお礼を言うようにお辞儀をした。
それが統吾と二重に見えたものだから、俺は目を擦って瞬きをしてしまった。
そこにいたのは、勿論橙色の頭をした統吾だけである。
見間違いだろうか。
それとも――…
俺は不思議そうに頭を傾げながら、帰っていく統吾の背中を見送った。
――人によっては、“非日常”
けれども、俺たちにとってはただの“日常”
変わらない日々が、今日も続いていく。
1章 完
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