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「まず、どこから話そうかな」
遠山は俺にゆっくりと太田の馴れ初めを話してくれた。
高校の部活で先輩と後輩だったこと。
高校から一人暮らしをしていた遠山を気にかけてくれたのが太田だったこと。
そこから仲が深まり、付き合う関係になったこと。
卒業してすぐに就職した太田と「大学を卒業したら」と"先の"話をしていたこと。
「変わったのは一昨年の冬くらいかな。環君、体調を崩したから病院に行ったんだけど、そのまま入院したことがあったの。その時は『検査入院だから』って笑っていたけど、多分その時に発症していたんだと思う」
それでも遠山は変わらず太田のお見舞いに行った。
その時はまだ太田も元気そうだったという。
そして去年の春、太田は二度目の入院をする。
これが、彼の人生の分岐点となる。
「病院から帰ってきて、すぐ呼ばれたの。でも、それが別れの挨拶だった。勿論、私だって納得しなかった。私は環君との関係が順調に進んでいると思っていたから…悲しくて悲しくて、受け入れなくて…でも翌日、環君はそのまま…」
あいつは、ビルから飛び降りた。
その事実を知った遠山は、自分を責め、心を閉ざし込んでいた。
お通夜にも、葬式にも行けず、彼に何も告げれないままただただ太田を思って泣いていた。
矢尾に会ったのはそんな時だったらしい。
けれどだ。
「葬式だけでなく今日も、四十九日にもいなかったよな」
俺の問いに遠山は黙ったまま頷く。
聞けば太田の遺影すら見たことないらしい。
薄々感じてはいたが、しかしそれは、俺にとっては信じられなかった。
寺の息子だからの考えでもある。
「なんでお参りしてやらないんだよ」
黙っていたかったのに、思わず本心がでた。
「太田はお前が嫌いで別れたんじゃない。お前のせいで死んだんでもない。それはわかってるよな」
遠山は静かに頷く。
「それならなんであいつに手を合わせてやらないんだよ。たとえ別れたとしても、付き合う前は友達だっただろ?」
死者というのは、お参りしてもらっている時に甦るのだ。
親父がそんなこと言っていた。
だから、その時俺はなぜ太田が何度も現世に帰ってくるのかその理由に気づき始めていたのだ。
「あのね、柄沢君…」
だが、遠山は悲しそうに俺に訴えた。
「人は一度付き合うと…もう友達には戻れないの。友達でも、恋人でもない私はーー環君に会う資格なんてないんだよ」
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