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だが、悲しいことにこれをデートと思っているのは俺だけで、牧穂はいつも通り淡々としていた。
楽器店の分厚いバンドスコアと睨めっこしながら、牧穂は考える。
旭が探してほしいと言っていたバンドはマニアック過ぎてスコアがないし、かといって今まで弾いていたバンドには少しだけマンネリを感じていた。
だが、牧穂も気にいる曲がないようでため息をついてスコアを閉じた。
「統吾は良さそうなバンド見つけた?」
「うーん…さとりんには色々情報聞いているけど、スリーピースってのがねー」
「確かに、最近シンセサイザー入れるのが多いもんな。でも、僕はやっぱりスリーピースがいいな」
こんな感じでバンドの話ばかり。
今回の目的があくまでもスコア探しだから仕方がないが、少し残念な自分がいる。
女の子とデートって、何をすればいいのだろう。
休憩がてらにお洒落な喫茶店でも寄ればいいのか?
それとも、一緒に美味しいスイーツでも食べればいいのか?
彼女いない歴年の数。
こんなことなら誰かにデート方法を伝授してもらえばよかった。
といっても、種岡もさとりんも彼女いたことないのだが…
「統吾」
「はい?!」
不意に名前を呼ばれ、俺は肩を竦み上げた。
ビビりまくりな俺に「そんなに驚かなくても…」と牧穂は苦笑する。
「疲れたんだろ? ちょっと休憩しよう」
そう言って牧穂はポンっと俺の肩を叩き、俺を誘うように先頭を歩いた。
着いた先は前に種岡とさとりんと来た喫茶店だ。
「この前、あすなと美波と来たんだ」
とても紅茶が美味しかったので、機会があればまた足を運びたかったらしい。
「でも、一人では行きづらいから、誰かと行きたかったんだ」
そう言いながら牧穂はさらりと俺をリードする。
「なんか統吾、いつもと違う。疲れているなら、休むのが一番だ」
そして、なんだかんだで俺に気遣ってくれる。
その優しさが、女子力というよりはなんだか紳士的で、どう見ても俺なんかより牧穂のほうが逞しくて悲しくなった。
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