11316人が本棚に入れています
本棚に追加
/1346ページ
俺たちは空いた席に座り、店自慢のスコーンと紅茶を頼んだ。
そういえば、彼女はいつからあすなちゃんと美波ちゃんを呼び捨てするようになったのだろう。
「あすなちゃんたちには頻繁に会うの?」
尋ねると牧穂は少し考え込んだ。
「講義で会うと一緒に受けてる。あとはノリで学食行ったり、バイト先に来たり…そんな感じだ」
マスターが俺たちの前に現れ、紅茶とスコーンをテーブルに置く。
牧穂は肩かけていた鞄からごそごそと何かを探す。
出てきたのは大きめのデジタルカメラだ。
しかもレ立派なレフがついている。
「これ、こないだ一緒に行った時の写真」
牧穂はカチャカチャとカメラのボタンを押し、俺に写真を見せてくれた。
場所は大学の中庭や食堂とまちまちだったがあすなちゃんと美波ちゃんの笑顔が収まっていることは共通していた。
「楽しそうだね。よく撮れてる」
「へへ…まあな」
牧穂は少し照れながらカメラを戻す。
「てかてか! そんなかっこいいカメラいつ買ったのさ」
「これか? これは大橋さんのお古だ。新しいの買ったらしいからもらった」
とは言うものの、牧穂は大事そうにそのカメラを扱っている。
牧穂が写真が好きなことは知っていた。
俺はよくわかんないが、この世にはサウンドシューターという者がいる。
直訳で音を撮る人。
簡単に言えばライブ写真専属のカメラマンだ。
その人の写真が好きらしく、大橋先輩と盛り上がっていたことがあった。
うちのサークルの写真は殆ど大橋先輩が撮っているが、おそらく後を次ぐカメラマンは彼女だろう。
「せっかくもらったから、いろんなものを写したいんだ」
そうすれば、写真撮るのも上手くなる気がする。
牧穂がそういうものだから、俺は思わずその場でピースした。
「格好良く撮ってね」
冗談交じりで笑うと、牧穂も「はいはい」とカメラを構える。
パチッとシャッターが切られた時、俺の脳裏にはある場所が浮かんだ。
そうだ。あそこに連れていこう。
今日は天気がいいからきっといい写真が撮れるはずだ。
最初のコメントを投稿しよう!