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翌日の放課後。
講義が終わった僕達は再びあの公園に来た。
「久々に来たわ。沼公園」
旭は腕を組みながらふぅと息をついた。
「小学生の頃、遠足で来たのよ」
「俺なんて幼稚園からだぞ」
学校自体は被っていないそうだが、この2人は絹子川市民なので2人にしかわからないような昔話に花を咲かせていた。
そんな2人を置いて、僕はまたあの場所へとやってきた。
「あ、いたいた」
木陰に置いた段ボール。
その中にあいつはいた。
「あん!」
小さな尻尾を振り回し、ぐるぐると僕の周りを駆け巡る。
それはもう嬉しさ通り越して興奮状態だ。
「この子が例の?」
旭が顔を出し、僕に抱かれたこいつに手を伸ばす。
「あら、なかなかの美犬じゃないの」
旭は犬が大丈夫なようで僕は胸を撫で下ろした。
こいつも旭に警戒心がないようで彼の大きな手をペロペロと舐める。
それを遠目で犬が苦手な統吾が顔をしかめる。
「なー、さっさとやろうよー」
しかし、不貞腐れながらも統吾は僕が頼んだバケツとジョウロを水飲み場へと運んでくれた。
むしろ、苦手と言っていたのによくここまで来たものだ。
「さて、ちょっとごめんよ」
僕は子犬を抱え、統吾の後に続く。
急に動き出す僕に、落ち着きがなくなってきた。
どうやら、こいつにとって嫌な予感がするらしい。
「お前、臭いからな」
僕は笑いながら統吾が持ってきたバケツに子犬をいれた。
バケツはバケツでも花屋で使う業務用のバケツだ。
それにシャワーに見たてたジョウロに水を汲む。
子犬のシャワータイムだ。
「あらあら、可哀想に」
とは言うものの、旭はクスクスと笑った。
旭の言うこともわかる。
犬は自分の臭いが好きだ。
しかも臭いほうがこいつらにとって落ち着くらしい。
なので、本来犬はシャワーを嫌う。
しかし、僕は臭うこいつを放っておけなかった。
臭いだけでなく泥だらけのこいつを。
汚れたものを綺麗にしたくなるのは人間のエゴだ。
わかっているが止められない。
僕はジョウロで子犬の体を濡らした後、100円均一ショップで買った動物用シャンプーをこいつに付けまくった。
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