柄沢次世と昔の話

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「ーー随分話し込んでたな」 障子から顔を出したのは悟だった。 「ほら、茶だ。叔母さんが持ってけってよ」 そう言って悟はコップに入った麦茶を俺と瞑の間に置いた。 「で、楽しそうになんの話してたんだ?」 「父さんと母さんの馴れ初め話聞いてた!」 悟の質問に瞑は明るく答える。 その回答に悟は物珍しそうに「ほう」と頷いた。 「なんだ。恋の相談か?」 「違う! だからなんでそうなるの!」 「やはり、恋でもしてたのか」 「写真見るか?」 「なんで写真持ってるの?!」 瞑は悟の携帯電話を追いかけるように手を伸ばし、そのまま奪い取った。 赤面する瞑を見て、悟が珍しく腹を抱えて笑っている。 この様子だとこいつらの恋愛の話を聞くのも早いうちにあるかもしれない。 そう思うと俺はなんだか嬉しくなった。 「悟ー、悪いけど手伝ってー」 台所から美代子が悟を呼ぶ。 「今行く」 返事をした悟はすっくと立ち上がり、縁側を後にする。 きっとあいつらのことだから、また2人で台所に並んでいるのだろう。 「…さっきの話に戻るけどさ」 悟にからかわれてご機嫌斜めだった瞑が再び尋ねる。 「子供がいなくて、寂しくない?」 その顔はなんだか悲しそうで眉尻まで垂らしていた。 俺は彼に答えた。 「全然寂しくないよ」 きっと美代子も同じ気持ちだろう。 なぜならば俺たち夫婦にはーー… 「お前と悟がいる」 そう言うと瞑は一瞬大きな目をぱちくりさせて、すぐに目を細めて笑った。 あんな悟と美代子のやり取りや、こうして俺の目の前にいる瞑を見て思うのだ。 "こんな人生も悪くないな"と。 幸せそうな美代子を見るとなおさら。 「瞑」 俺が名前を呼ぶと瞑は不思議そうに首を傾げる。 「いつでも帰ってこいよ」 「……うん!」 嬉しそうに微笑む瞑を見て、俺も釣られて笑った。 ーーそんな中、なんの前触れもなく携帯電話が震えた。 悟の携帯電話だ。 瞑が手にしたままだったので、気づかずに置いていってしまったのだろう。 瞑は悟に知らせようと、着信の相手を見た。 「統吾君?」 それは以前家に遊びに来た悟の友人の名前だった。
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