高爪統吾とデジャヴ

25/32
前へ
/1368ページ
次へ
「どいて!」 ここは俺がやるしかなかった。 俺は風間を払い除け、扉に手を伸ばす。 「開けこのヤロー!!」 そう声を荒げながら、扉に突っ込んだ。 「嘘だろ?」 その場にいた3人が口を揃えた。 壊れるのではないかというほど、俺の力で扉がぶっ飛ぶように開いたのだ。 散々開かなかった扉を文字通りこじ開けた俺に、3人は唖然とした。 だが、迷っている暇はない。 「竹中! 車の鍵!」 俺の声でハッとした竹中は、車のキーを遠隔操作で開ける。 テールライトが光ると俺たちは一斉に車に飛び込んだ。 が、ここで問題が起きた。 エンジンがかからないのだ。 「なんで?! 点検したばかりなのに!」 バッテリーが上がっているのか、何度鍵を回しても空回りするだけ。 「何してるんだよ! 早く!」 ついにはあの大人しい戸田まで声を荒げた。 「わかってる! でも!」 竹中はもう頭が混乱していた。 キーを持つ手が震え、呼吸も早い。 「大丈夫だから! 落ち着いて!」 「落ち着いていられるかよ!」 このやり場のない状況に風間の堪忍袋の緒が切れた。 俺は彼に胸ぐらを掴まれ、思い切り後部座席に背中を叩きつけられた。 血走った目の風間と目が合う。 「もう走ろうぜ!」 戸田は先に車から出ようと扉を開けようと力を込めた。 が、開かない。 まるで反対から途轍もない大きな力で押し込まれているようにちょっと開いたと思えばすぐに閉まってしまうのだ。 ふと顔を上げると、俺たちはその車窓からちらりと見えてしまった。 白い病衣を着た女の子だ。 彼女だ。彼女がもうそこまで来て 追いついてきたのだ。 考えろ。 この状況を打破するのだ。 動かない車。 開かないドア。 こんな経験、前にもあったではないか。 このデジャヴが、答えを導く。 ーー声を張り上げろ! 俺は息を吸い、そして全ての力を声帯に込めた。 「うおりゃぁぁぁぁ!!」 俺の声が車内全体に反響する。 ビリビリと波動すら感じるような声量で、3人は思わずたじろいだ。 空気が一変したのだ。
/1368ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11352人が本棚に入れています
本棚に追加