高爪統吾とデジャヴ

26/32
前へ
/1368ページ
次へ
それが合図かのようにエンジンがかかり出した。 竹中は今だ!と言わんばかりにアクセルを踏みつける。 ブォン!と排気ガスを出し、車はロケットの如く発車した。 シートベルトをしていなかった俺たちは運転席や助手席に頭をぶつける。 が、文句は言えなかった。 竹中の心にそんな余裕などなかったからだ。 まるでレースをしているかのように竹中は手に汗を握りながらハンドルを切る。 緩やかなカーブですらスピードを落とさない。 ドリフトでもかかっているのかと錯覚するほどだ。 街灯すらない山道を車はひたすら下る。 その間、俺たちはずっと黙り込んでいた。 それぞれ葛藤していたのだと思う。 前を見ないよう、ずっと頭を下げている戸田。 それとは逆に希望の光を逃すまいと、必死に前方にかぶりつく竹中。 ただひたすら苛々しながら、貧乏ゆすりをする風間。 各々が恐怖に耐えていた。 「おい、あそこ!」 風間が声を上げた。 山道を越えると小さな光が見えた。 「あれって、さっき来たコンビニだろ?」 風間にようやく笑顔が戻る。 その言葉に戸田はゆっくりと頭を上げた。 「…本当だ」 げっそりとしていたが、心から安堵しているのが見てわかる。 竹中は何も言わずにそのコンビニに駐車した。 そして、エンジンを止めるとハンドルを握ったまま深いため息をついた。 「…助かったのか。俺たち」 その声は今にも消えそうだ。 コンビニは白い光を放つ。 変哲のないただの蛍光灯なのに俺たちはその輝きに温もりを感じた。 生きてる。 心底そう思う。 「…俺、コーヒー買ってくる」 「俺も」 戸田も風間はそのまま車のドアを開け、外へと出た。 俺もとにかく外の空気を吸いたかったので彼らに続いた。 が、俺の体はとっくに限界を越えていた。 彼らのように店内まで歩く気力すらなかった。 「統吾?」 竹中が心配そうに顔を覗かせる。 俺はその場にしゃがみこんでいた。 「はは…今更怖いや…」 無意識に声が震え、ポロポロと涙がこぼれる。 声だけでない。 手も足も痙攣しているかのようにガタガタ震えた。 「おい、本当に大丈夫かよ!」 戸田と風間が俺に駆け寄る。 だが、俺もいい加減限界だった。 「ごめん…俺、吐くわ」 「え! ちょっーー」 そんな彼らの声も聞こえない。 俺はその場で嘔吐した。 なんだかやっと俺らしくて、ちょっと笑えた。
/1368ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11352人が本棚に入れています
本棚に追加