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「さて」
さとりんのお父さんは息をつく。
「次世に気の溜め方を教わったのは本当ですね?」
「は、はい」
お父さんは持ち前のまん丸い大きな目で俺を見ると、自然と背筋が伸びてしまうほど、緊張感が漂った。
「不思議なのですよ。君が"無傷"なことが」
「無傷?」
「ええ。君の話を聞く限り、その廃病院は丹田に気を溜めるだけなんかで守れるほど弱くない。多少の霊障、または一体二体は取り憑かれてもいいはず…」
「さらりと怖いこと言わないでくださいよ…」
そんな怯える俺にお父さんはわざとフフフと笑う。
「でも、俺、あの後すっげー体調崩しましたよ? 結局いつも通り吐いたし」
だが、お父さん曰くあの体調不良は霊障などまったく関係ないらしい。
もっと情けない…二日酔いだったようだ。
「そもそも潰れるまで飲んで、それから走ったり荒い運転に乗ったんですから、具合悪くなるに決まってますよ」
思い当たる節が多すぎてぐうの音も出ない。
「それでも」
お父さんはいきなり言葉を強調させた。
「今回はたまたま君の"気"が彼女と相性がよかったのでしょう。つまり、運がよかっただけです。次は憑かれるかもしれない。呪われるかもしれない。それを忘れないでくださいね」
優しい口調に見えるがそんなことはない。
目をぎょっと見開いて、お父さんは前のめりになって俺の顔を覗き込んだ。
忠告。
言葉で言わなくてもオーラを感じるかの如く伝わる。
「申し訳ございませんでした」
胡座をかいてた姿勢をすぐ正座に直し、俺はそのまま畳に額をつける。
お父さん、超怖い。
そんな俺の気持ちがばれたのか、お父さんは悪戯っぽく笑った。
「…今回は君の強さに免じましょう」
「俺の…強さ?」
いつもの穏やかな口調に戻ったお父さんに、俺はびくつきながら顔を上げた。
「ええ」
お父さんは強く頷いた。
「君が無事にご友人を救い出せたのは次世の助言のお陰ではありません。君がご友人を助けたいと思う気持ち。そして自ら突き進んだ勇気。それが今回の結果を招いたのです」
"守りたい"と言う気持ち。
それが、今回の最大の武器であり、盾であった。
お父さんに褒められた気がして、照れ臭くなった俺は頬を掻いた。
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