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結局何事もなかった俺は、時間までお父さんとお茶してしまった。
「すいませんでした。さとりん達のところ行くのにお邪魔して」
「いいんですよ。悟も次世も心配してましたから。顔が見れて安心です」
お父さんはにこっと笑い、俺を玄関まで見送る。
そんな彼に会釈し、境内を出た。
家に向かって歩いていた時のこと、突然携帯電話が鳴り出した。
電話の主は竹中だった。
「今から会えないか?」
何かに怯えたような、小さく震えた声で竹中は訴える。
その様子に異変を感じたので俺はすぐに近くのファミリーレストランで竹中と待ち合わせた。
「急に悪いな」
丸一日しか空いていないのに、竹中は心なしかげっそりとやつれているように見えた。
「どうしたの?」
心配そうに顔を覗き込むと、竹中は「大丈夫だ」と言う。
けれども、全然そのようには見えない。
「…体調はどう?」
「正直、良いとは言えない。眠れないんだ。目をつぶるとあの子の笑い声が聞こえてきて…」
「そんなの幻聴だよ!」
「わかってる。わかってるけどダメなんだ…なんかもう、トラウマみたいになっちまった」
がっくりと項垂れる竹中を見て、俺はかける言葉を探し出せなかった。
竹中は大丈夫だ。
なぜなら何も憑いていないから。
だが、そんなこと言って竹中が信じてくれるのか?
ただ、唇を噛みしめることしかできない。
「…戸田と風間も体調不良だとよ。そりゃそうだよな」
「神主の爺ちゃんは他に何も言わなかったの?」
「お祓いはしたけど暫くは悪夢で魘されるだろうってさ。あと、もうすぐ怪我か病気になるだろうから諦めろって」
「そんな!」
「遊び半分であんなところに行った罰って奴でさ。呪われていないだけマシだとさ。はは…笑っちまうよな」
竹中の乾いた笑いに感情はなかった。
最善は尽くした。
3人とも生きている。
なのに、この胸を締めつけられるような苦しさはなんなのだろう。
俺は、果たして彼らを救うことができたのだろうか。
それすら疑問に思わされる。
「…そんな顔するなよ」
今の俺の表情はとても情けなかったのだろう。
竹中は申し訳なさそうに、眉尻を垂らした。
そして、話を本題に入らせたのだ。
「あれから俺なりに色々調べたんだが…ちょっと聞いてくれないか」
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