高爪統吾とデジャヴ

32/32
前へ
/1357ページ
次へ
それから俺たちはこの事実を誤魔化すように別の話題に移した。 といっても、俺の酒癖の悪さへの説教が話し半分だ。 記憶はまったくないが、竹中に随分と迷惑をかけたらしい。 「ま、今回の件でチャラってことで」 明るい口調で俺が言うと、竹中は「まったく」と呆れたように笑った。 でも、その笑顔はもういつもの竹中だった。 時間を忘れていた俺たちは、話題も落ち着き、良い頃合いになったので解散することとなった。 「じゃ、またな」 「うん…今度は成人式で」 「言っとくが、酒は飲ませないぞ」 皮肉を一つこぼし、竹中は俺に手を振った。 その表情が柔らかくなった気がしたので、俺は胸を撫で下ろした。 それでもこの先、彼らは思い出すだろう。 病院に行く度。 女の子を見る度。 夜がくる度… あの日のことを思い出すだろう。 忘れてしまいたいほどの、あの恐怖を。 たとえ命が助かったとしても、この植え付けられてしまったトラウマからは逃げ出せない。 これを自業自得と言う人もいれば、罰とか、呪いだとか言う人もいるだろう。 自分で仕出かしたことなのだから、文句も言えないのだ。 ーーきっと、これからもあの病院には人が訪れる。 若気の至りで…というのも一理ある。 だが、俺の考えは違う。彼女が呼んでいるのだ。 次の遊び相手を。 風間たちも彼女に魅入られたうちの一組だ。 彼女が飽きるまで止まらない。 果たして俺は本当に友人を救うことができたのか。 陳謝の意味も込めて俺は竹中の背中が見えなくなるまで彼を見送った。 ある夏のある出来事。 今日も彼女は、誰かが来るのを待っている。
/1357ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11330人が本棚に入れています
本棚に追加