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夏休みも半ばに入ったある日のこと。
俺とあすなは中学校の同窓会に参加するために帰省していた。
といってもあんな田舎の港町では居酒屋なんてのはなく、開催場所は町に唯一存在するバーだった。
バーに入るとすでに懐かしの面々が飲み始めていた。
その中には今回の幹事でもあり、旧友でもあった若野(わかの)もいた。
「おーい種岡。こっちこっち」
呼ばれたので若野に近づくと、彼の赤く染まった派手な髪色が目に入った。
「なんだよその頭」
「久しぶりに会ってそれかよ」
思わず笑うと若野は不貞腐れたように口を尖らせる。
「お前だって染めてるだろ」
「俺は自分の似合う色がわかってますから」
得意げに言うと若野に「調子に乗るな」頭を叩かれた。
「それにしてもーー」
俺は改めてあたりを見回した。
バーなんて洒落た店なんてこれまでなかったこともあり、新しくできたという噂は聞いていたが、入るのは初めてだった。
黒でまとまったシックな背景に白いライトがポツポツと置かれている。
こんなにも明かりが少ないのにおしゃれに感じるのはマスターのセンスがいいのだろう。
しかしボックス席というのは極端に少なく、小さな丸いテーブルや長テーブルが置かれているだけで、みんなそれぞれ固まって飲んでいた。
あすなはというとすぐさま女子グループのところへ駆けていた。
そこからは「久しぶりー!」と甲高い声が聞こえる。
流石大学生だ。若野が可愛く見えるくらい女性陣は変わっていた。
主に化粧で。
「こりゃ、卒アル見てもわかんないよなー」
俺の苦言に若野もすぐに同意した。
「幹事は大変だせ。なんせ顔がわからないんだから」
「化粧は整形の域だもんな」
俺たちは女子に聞こえないように小声で笑う。
そんな彼女たちを横目で見ながら「ところで」と俺は若野に問う。
「男の数少なくね?」
見たところ女子だけで10人くらいいるが、男子は俺らいれても片手で収まるくらいの人数しかいない。
「ドタキャンやら遅刻が多いんだよ。まったく、だらしない奴らだぜ」
若野は頭を抱える。
ただでさえうるさい連中が多かったうちのクラスは高校という間を入れてフリーダムさに磨きがかかったらしい。
若野、御愁傷様。
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