種岡亮太と群青

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「連絡が来てるのは棚町(たなまち)だけか…」 ため息混じりで若野はぼやいたが、俺はその"棚町"という名前に飛びついた。 「アキが来るのか?」 「ああ、仕事終わってから向かうから、だいぶ遅れるとさ」 若野はそう言うが、たとえ遅れたとしても俺はアキに会えることが嬉しくてたまらなかった。 棚町亜樹(たなまち あき)。 女みたいな名前だが、歴とした男だ。 俺のクラスメイトで、部活も一緒だったものだからほぼ毎日一緒にいたし、とても親しい仲だった。 ただ、親友といえども高校は別々で俺は普通科、彼は工業高校に進んだ。 連絡はとっていたが、俺が大学進学で絹子川に行ってから疎遠になったので、実に2年ぶりの再会だ。 「でも、仕事かー……」 俺は呑気な学生、アキは立派な社会人。 同じ歳なのに、なんだか先を越された気分だ。 「あいつ、仕事何してるんだ?」 「大工」 「大工?!」 若野の答えに俺は思わず驚いた声をあげた。 アキが大工だなんて想像ができない。 中学生のアキは160cmもないくらいの小柄で、手首や足首も掴めるくらいの細身だった。 しかも俺と同じテニス部だったのにろくに日も当たっていないような色白で、女の子みたいなくりっと大きな目を持つ容姿だった。 あれから背は多少伸びたかもしれないが高校の時と然程変わらない。 そんなアキがむさ苦しい男の職場にいることが想像できない。 「あいつ大丈夫なのかよ!」 「まー……でも、あいつ大工になりたがってたからいいんじゃね?」 若野は覚えたてのワインを口に運びながらぼやいた。 若野に言われて思い出したが、あいつは大工になりたかったから建築科のある工業高校に進んだのだ。 「……あいつ凄いな」 あの若さでもう夢を叶えたのか。 染み染みと噛みしめると、なぜか若野が笑い出した。 「お前はあいつの親かよ! なんでもうセンチメンタルになってるのさ。夜はまだこれからだぜ」 「……そうだな」 アキに会う前に感傷的になるなんて、俺も相変わらずだ。 アキが来るまで俺も何か飲もうと若野と別れ、マスターのところに足を運んだ。 アキが来たのはそれから随分と後のことだった。
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