種岡亮太と群青

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ーー時刻は9時を回り、二次会の話もちらほらと上がってきた頃のこと。 貸し切りのはずだった店の扉が開き、1人の男性が俺たちに近づいた。 「久しぶり」 男性はにこやかに笑って手を振るが、俺たちは一瞬ポカンとしてしまった。 「…棚町君?」 あすながアキの名前を呼ぶまで、俺たちは彼が誰なのか確信が持てなかったのだ。 「やあ、矢尾じゃん」 「久しぶりー! なんだか大人っぽくなったね」 あすなは嬉しそうにアキに駆け寄ると、アキも持ち前の大きな目を細めた。 大人っぽい。 確かにそうかもしれない。 今、俺の目の前にいるアキはあの頃のアキと違う。 日焼けした肌。 刈り上げた短髪。 タンクトップから見えるがっしりとした腕。 背丈も少しだけ伸びていて、顔つきもあんな中性的な可愛らしい顔ではなく、男らしくなっていた。 そんなアキの変わりように俺はアキから話しかけてくれるまで何も言えなかった。 「リョウ…久しぶり」 爽やかに笑うアキの顔が眩しい。 「お、おう。元気そうだな」 そんな彼を目の前にして俺はそんなひねりのない挨拶でしか返せなかった。 「ごめんな若野。仕事伸びちゃって」 幹事の若野に謝るアキだが、そんな彼を若野は哀れむ。 「社畜は大変だねー」 若野はため息をついて「働きたくないでござる」と続けた。 「棚町君は何飲む?」 あすなは気を利かせてメニューを持って行ったが、アキは酒を断った。 「明日も仕事だから、軽くご飯食べて帰るよ」 「仕事なの?! そんな無理してこなくてよかったのに…」 「いや、いいんだ。久しぶりにみんなに会いたかったから」 そう言ってアキはマスターにパスタと烏龍茶を頼んだ。 しかし、アキが食べ終えて挨拶回りした頃には同窓会もお開きになってしまった。 「今日はこれで解散! 後は各々勝手にやってくれ」 若野はアルコールに負けて顔を赤くしながらも声を張った。 とは言ってもこんな田舎では遊ぶところもない。 女子は二次会またの名を女子会を行うらしいが、男どもは帰宅組が大半を示した。 「種岡、棚町…俺も疲れたから帰るわ」 精算を終えた若野も俺たちに別れを告げると、千鳥足になりながら店を出て行った。 しかし、まだ遊び足りない俺はカウンターに座りながらみんなが帰る姿をぼんやりと見つめていた。 そんな中、アキは帰ろうともせずに、俺の隣に座ってきた。 「リョウは…これから暇? 良ければ付き合ってくれないか?」
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