種岡亮太と群青

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「断る」 その突き刺す言葉に、俺は耳を疑った。 顔を上げた先の悟はあまりにも冷淡無情な表情だった。 俺は目を見開いた。 「なんでだよ…」 裏切られた気分だった。 「なんでそんなにすぐ断るんだよ!」 ふつふつと怒りの感情が湧き出る。 気づいたら、俺は悟の胸ぐらを掴んでいた。 「お前、あいつが視えるんだろ! 探せるんだろ! なんで助けてくれないんだ!」 憤怒そのものをぶつけるように俺は悟に怒鳴り散らした。 あすなと美波ちゃんが怯えた目で俺たちを眺める。 そんな2人に火花が飛び散らないようにと統吾は彼女たちを庇った。 だが、当事者である悟は顔色ひとつ変えなかった。 それどころか、沈着した様子で俺に突き刺すのだ。 「会ったところで、お前はどうするんだ」 "正論"という名の、言葉の刃を。 彼の予想だにしない言葉に俺は手を止めた。 それでも、悟は俺を切りつけるのだ。 「…確かにその亜樹って奴に会わせることはできる。でも、だからどうだっていうんだ」 聞きたくない。 アキが死んだなんて言葉を、もう聞きたくないんだ。 それなのに、悟は止まらない。 「『なんで死んだ』とでも尋ねるのか? いくら足掻いても死んだ事実は変わらないだろ」 突き刺された俺の心から血が流れ出す。 そんな俺に向かって、無情にも悟は言い放った。 「『死んでごめん』でお前の気は済むとでも言うのか」 「うるせえ!!」 悟の目の前で俺は吼えた。 その叫びは最早気迫まで感じた悟は反射的に俺を振り払い距離を取った。 だが、俺もついに堪忍袋の緒が切れたのだ。 霊が視える。 この俺が、喉から手が出るくらいほしい力を持っていながらあいつはそれを否定するのだ。 「いいよな…悟はよ」 その力を持って使わない悟を、俺にとってはもう見せびらかすようにしかみえない。 散々傷ついた心を持った俺に、感情を止めるような理性はなかった。 「霊が視えたら、いつでも死んだ人に会えるもんな」 それが、たとえ悟の弱みだとしてもだ。 「お前の大事な母さんにも会えるもんなあ!!」 引き攣った顔でも、俺は悟を見てあざ笑うことしかできなかった。 それしか、俺は悟に対抗する術がなかったのだ。 流れ出した俺の心の血液は、俺の淀んだ汚い感情を出し始めていた。
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