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ほんの数十分だったはずなのに、時の流れがとても遅く感じた。
種岡君が勢いよく部屋の扉を閉めたあとも室内では張りつめた空気が流れていた。
あすなちゃんは彼を追いかけようとしたが、足がおぼつかず、よろめいてそのまま膝をついた。
脱力した足は立ち上がることもできず、あすなちゃんは跪いたまま動けなかった。
俯く彼女の目からは涙がこぼれ落ち、その姿を見るだけで心が痛んだ。
あすなちゃんの隣に座って彼女に手を伸ばしたが、彼女は私の手を取ろうとしなかった。
「ありがとう美波……大丈夫だよ」
あすなちゃんはふらつきながらも徐に立ち上がり、私に微笑んだ。
ただ、細めた目からも涙が流れている。
それでもあすなちゃんは涙を拭い、私たちを見据えた。
「ごめんねみんな……あたしが亮太の気持ちも考えないでここにみんなを連れてきたせいだ。本当にごめん。私も出直すから……みんなも休んで」
わざらしく思えるほど明るいトーンで言ってくる彼女に私は言葉を詰まった。
強がる彼女を見ているだけで心が痛む。
「そんなことないよ」と言いたいのに、口が思うように動かない。
何も言えないうちにあすなちゃんは部屋を出て行った。
あすなちゃんを見送ったあと、柄沢君は深くためいきをつきながら頭を掻く。
「悪かった……頭冷やしてくる」
そう言う柄沢君は私たちに顔を向けることなく部屋を出る。
しかし、その背中からは侘しさを感じた。
一瞬にして静まり返った部屋で、私は自分の無力さに失望していた。
あれだけ活き込んでいたのに、ふたを開けてみればどうだ。
ただ傍観しているだけで何もできなかったではないか。
種岡君を元気づけることも、あすなちゃんを慰めることも、何一つ――……。
悔しさに下唇を噛んでいると、隣から「あーあ」という気の抜ける声が聞こえた。
目をやると高爪君がうんと背中を伸ばしていた。
「大丈夫? 怖くなかった?」
「うん……大丈夫」
彼の気遣いに心配させまいと即答すると彼も「そっか」と口角を上げた。
「なら悟のこと…お願いしていい?」
私は言葉を失ってしまった。
だが、高爪君はフッと笑う。
「多分…種岡のほうは俺にしかできないから」
あまりにも切ない顔で笑うものだから私も胸が苦しかった。
「ごめんね、厄介なほうを頼んで。悟のこと、お願いね」
申し訳なさそうに言う彼の懸念が少しでも晴れるように、私は力強く首を縦に振った。
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