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高爪君には強がったものの、いざ彼らの部屋にたどり着くと手が震えた。
少しだけ怖かった。
柄沢君に対してではなく、私なんかにできることがあるのかということに。
汗ばんだ手で扉を叩く。
だが、返事はない。
「…入るね」
よそよそしく言い、私はドアノブを握りしめた。
部屋の鍵は開いていた。
扉を開けると、明かりは点いていなかった。
部屋の真ん中についた大きめの窓から月明かりが射し込む。
その月を眺めるように柄沢君は窓の縁に持たれていた。
横目でちらっと私を見た後、彼はすぐに視線を戻した。
「統吾にでも言われたのか」
「あ、うん…」
正直に答えてしまうと、柄沢君は面倒臭そうに「まったく」と息をつく。
それから、私は何も彼に尋ねることができなかった。
いつもならこんな沈黙なんとも思わないのに、心苦しくて仕方がなかった。
こんな空気にしているのは私だ。
私がこんなにも緊張しているから。
なぜなら、柄沢君だけはいつもの彼なのだから。
私は思わす深呼吸した。
私は勇気を出して、彼に伝えた。
「種岡君の気持ち…少しだけわかるんだ」
ぽつり、ぽつりと、まるで雫が凋落するように私は言葉を発した。
この答えに未だ迷いがあったからだ。
「柄沢君の言うことも間違っていない。たとえ一目会えたとしても、亡くなってしまった事実は消えない。むしろ、つらくなるのもわかるの。それが正しいとも思う」
柄沢君は、"視える"からこそこの苦しみに気づいているのだ。
だから、これ以上種岡君に傷ついてほしくなかった。
それでもだ。
「私たちは亡くなった人には会えないからこそ、会いたいと思うの。これからまた会えなくなるより、今、会えたらそれでいいの」
夢の中でもいい。
幻でもいい。
それだけでどん底に突き落とされた私たちの心は満たされるのだ。
いつの間にか、柄沢君は私の目を見つめていた。
まるで、私の意見を真っ向から受けとめるような真摯的な眼差しだった。
だからこそ、私は彼に請うことができたのだ。
「お願い。亜樹君を探してあげて」
でないと種岡君はきっと私みたいになってしまう。
あの頃の苦しみを種岡君にさせたくない。
柄沢君は困惑顔で髪を掻いた。
そしてまたため息をついたのだ。
「お前がーー…」
だがそう言いかけた時、彼の顔つきが変わった。
まるで驚いたように目をまん丸くさせたのだ。
視線は私のやや後ろ。
「…お前、誰だ?」
彼は確かにそう呟いた。
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