種岡亮太と群青

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* * * 「…お前、誰だ?」 おそらくこの時、私は柄沢君の眼中になかった。 柄沢君は私の背後をじっと見ている。 ただ、その眼差しはいつものような威嚇的ではない。 何かを観察するように慎重だった。 無論、背後には誰もいない。 やがて、柄沢君が息を呑んだ。 そして柄沢君は困ったように髪の毛を掻き始める。 そして諦めたように深いため息をついた。 「怖がらせることを言っていいか」 腕をだらんと下ろし、柄沢君は力なく尋ねた。 私はすぐに首を縦に振る。 きっと、柄沢君には私が視えていないものが視えているのだろう。 再度頭を掻きながら、柄沢君は事情を説明した。 「遠山の後ろに男がいる。だが、お前に憑いている訳でないからそこは安心してほしい。ただ…こいつは俺に話を聞いてほしいって言うんだ」 柄沢君は戸惑っていた。 多分、このようなことは自分に不向きだと思っているのだろう。 それに何より、この場には私がいる。 「こいつの話を聞いている俺は、はたから見たら独り言を言っているようにしか見えないだろう」 柄沢君が懸念しているのはそこだった。 これから見る柄沢君は私の知らない彼であり、私がどう努力しても介入できない世界になる。 「気色悪いだろうから、部屋に戻ってろよ」 そう語る柄沢君の表情はどこか苦しそうだった。 しかし、私は首を振った。 「私も一緒に彼のお話聞かせて」 私に彼の声を聞く力がないのはわかっている。 それでも、私はここにいたかった。 ここにいれば、少しでも柄沢君の感じている世界に近づけるような気がした。 彼の辛苦であるこの霊の視える世界というものに。 柄沢君は驚いたように目を見開いたが、やがてフッと短く笑った。 「勝手にしろ」 そう言った柄沢君はどこか嬉しそうだった。
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