種岡亮太と群青

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程なくして霊の彼が語り始めたのか柄沢君の顔つきが変わった。 間接的には関わっていたが、実際に柄沢君が霊と対話しているところは初めて見た。 実に奇妙な光景だった。 そこには私以外誰もいないはずなのに、柄沢君はずっと空間を見つめているのだ。 そして、時々頷いたり、返事をしたりしているものだから、私にはたとえ姿が視えなくても本当に会話しているように見えた。 これが、柄沢君と高爪君の日常。 無意識に緊張していたのか、私は固唾を呑んだ。 今思えば、私の正に目の前に幽霊がいるのだ。 本来ならこのホラーな展開に私は体を震わせているだろう。 だが、不思議と恐怖心はない。 幽霊に対しても、それが視えてしまう柄沢君に対してもだ。 ただ、柄沢君自身はこの状況に不慣れなこともあり私を気にしているようだ。 彼の話を聞きながらも、気遣うようにちらちら私を見る。 やがて、面倒になったのか「後で全部話す」と息をついた。 すると、柄沢君の眉がピクリと動いた。 話に展開があったらしい。 柄沢君は少し考え込んだ。 「…それは、お前も傷つくことになるんじゃないのか?」 だが、後で説明されるもいえども内容はさっぱりわからない。 それでも、彼は肯定したのだろうか。 柄沢君は「わかった」と首を縦に振った。 「お前がいいなら、周りに話をつける。でも、信じてくれるかはあいつら次第だからな」 彼の覚悟を、柄沢君は聞いたのだろう。 「よろしく頼むぞ、棚町」 柄沢君は目の前にいる彼の名前を呼んだ。 その名前は亡くなった種岡君とあすなちゃんの友人と同じものであった。
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