種岡亮太と群青

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* * * 一夜明けた夜のこと。 統吾が慰めてくれたが、それでも悟たちに合わせる顔がなく、今日も部屋で一日中寝転がっていた。 いつものように部屋の扉が叩かれる。 どうせあすなだろうから、俺はベッドに横たわったまま、適当に返事をした。 「……種岡君?」 だが、扉の奥からあすな以外の声が聞こえてきたので、驚きのあまり飛び起きた。 「美波ちゃん?」 彼女が部屋に来るとは予想しておらず、思わず身構えた。 けれども美波ちゃんは扉を開けず、部屋の外から俺に言う。 「いきなりごめんね……柄沢君たちが呼んでるから迎えに来たの」 「悟たちが?」 たとえ美波ちゃんの頼みでも気乗りしなかった。 悟には未だに謝れていないし、会うには気まずい。   躊躇していると美波ちゃんがさらに俺に請うてきた。 「お願い。種岡君。どうしても会ってほしい人がいるの」 「会ってほしい人?」 その言葉に思わずドキッとした。 そして余計な期待感を抱いてしまった。 だから頭の中で状況を整理する前に、俺は部屋の扉を開けていた。 扉を開けると、美波ちゃんの他に疲れきった顔のあすながいた。 そこにはいつもの活気はなく、相当泣いたのか目を腫らせている。 ドアノブを持ったまま固まっていると、美波ちゃんは俺とあすなに確認するように訊いてきた。 「ついてきて……くれるんだよね?」 彼女の力強い眼差しに戸惑いつつも、コクリと頷いた。   美波ちゃんの後について行く際も、俺はひそかに緊張していた。 自宅の隣にある旅館を横切り、浜辺へ続く階段を下る。 海開きの時は賑やかなこの砂浜も、漣が聞こえてくるだけで当たりは静かだった。   悟と統吾は波打ち際を背にして二人並んで立っていた。 二人の間には人が一人入るくらいの隙間が空いており、月明かりで反射した白い光がどこまでも伸びていた。 二人の距離感に違和感を抱きながらも、俺たちは彼らの前に立った。 昨夜あれだけ話したはずなのにどうして統吾はそんな悲しい顔をしているのだろう。 どうしてあれだけ強気だった悟がそんな物憂う顔をしているのだろう。 この哀愁漂う彼らの悲しげな眼差しが余計俺を緊張させる。
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