種岡亮太と群青

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冷たい風が俺たちの間を吹き抜ける。 暫時の沈黙の後、悟がその重たい口を開いた。 「視えるか? 種岡」 その問いかけを紡ぐように統吾が述べる。 「ここに……亜樹君がいるよ」   その言葉の耳にした途端、体中から力が抜けて膝から崩れ落ちた。 そうだ。 いくら目の前にアキがいたとしても、俺はもう二度とアキの姿を視ることができないし、話せないのだ。 それもわかっていたはずではないか。 「馬鹿野郎……」 俺は八つ当たりするように冷えた砂を握り潰した。 「なんでだよ……」 そこにアキがいるかなんて、俺にはわからないのに、俺は彼に向かって叫んだ。 「なんで死んだんだよ! アキ!!」 枯れきったと思っていた涙が、また俺の頬に伝う。 今まで抑えこんでいた感情が、割れたガラスから溢れる水のように冠水する。 「お前、大工になったばかりじゃないかよ!」 本当はもっと話したかった。 「駅のオフィス完成させるんじゃなかったのかよ!」 本当はもっと遊びたかった。 「あすなにも、ちゃんと気持ち伝えてないじゃないかよ!」 もっと、一緒にいたかった。 ただ、それだけだったのだ。 その叫びが虚しいくらい静粛な浜辺に響き渡る。 そんな無残な俺を見て、あすなが涙を流した。 すすり泣くあすなの肩を美波ちゃんがそっと抱きしめる。 統吾は歯を食いしばり、必死で泣くのを堪える。 このやる瀬なさに耐えきれない悟は夜空を見上げる。 各々違う感情と戦っていた。 嗚咽を齎しながら二人の空いた空間を睨んでいると、光り輝く粒子が2人の隙間から見えた。 その光はやがて人の形に変わっていき、飛び込んできたその光景に俺は声を失った。 「……アキ?」 死んだはずのアキが、そこにいたのだ。
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