種岡亮太と群青

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悟と統吾も目を見開きながら隣のアキを見つめた。 けれどもアキは俺をじっと見つめただけで、何も言わずにただ笑みを浮かべる。 突然現れたアキに俺は手を伸ばさずにはいられなかった。 アキも笑顔を保ったまま腕を伸ばしてくれたが、彼に触れることができず、ただ空を掴むだけだった。 「なんでだよ」 こんなにも近くにいるのに、触れることもできない。 「何か言えよ!!」 姿が視えるのに、口を開かない。 だが、どんなに手を伸ばしても、声を荒げても、アキはあの日と変わらない笑顔を浮かべるだけだった。   そんな中、ついにアキがゆっくりと言葉を発した。 「ありがとう」 そのたった一言を言うと、アキに纏っていた光の粒子が輝き出した。 その光の強さにアキの笑顔ですら眩んで見えた。 「アキ!」 消えるなと、俺は立ち上がって彼に駆け寄った。   アキは俺を受けとめるかのように両腕を広げる。 けれども俺が彼の光に突っ込んだ途端、まるで俺の体に吸い込まれるかのように光となって消滅した。 取りこぼした僅かな光が月明かりに反射する。 キラキラと輝きながら天に昇って行く光を追うように空を仰ぐと、頬に一筋の涙が伝った。 それがきっかけのように、俺の目からポロポロと大粒の涙が流れ出た。 ――何もしてやれなかったと思っていた。 わいわい騒いで、くだらないことで笑って、ただ隣にいただけだった。 それでも最後に言ったアキの言葉が頭から離れない。 「俺こそ、友達でいてくれてありがとう」 その言葉を呟くと、俺の中で纏わりついていたものが音をたてて崩れ落ちた。 気づけば声をあげて泣いていた。 許されるなら、今だけこのまま泣かせてほしかった。 こうでもしないと、俺の心が本当に壊れてしまいそうだった。 あと少し。 あと少しで立ち上がれる。 そして、棚町亜樹の分まで生きる覚悟ができる。 だから、どうか今だけ――……。 悟と統吾は俺の泣き声を痛ましそうにしながら空を見上げていた。 夜の海はいつまでも漣を立てており、月光に反射するアキの魂は迷うことなく真っすぐ天へ昇っていた。
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