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翌朝、俺たちは絹子川市に帰る電車に乗るため町の駅に来ていた。
「明日からまた大学かー、面倒だねー」
統吾が欠伸をしながら背中を伸ばす。
一週間以上もサボっていたからか、随分と懐かしく感じる。
絹子川市に戻ると、またいつもの代わり映えのない日常に戻るのだろう。
「帰ったら大橋さんに焼肉おごらないとな」
悟はニヤリと笑って俺の肩を叩いた。
そういえば、俺が休んでいる間ずっと大橋さんが俺の出席の替え玉してくれていたのだっけ。
「お前らにも世話になったし、焼肉ぐらいおごらないとな」
「お、マジか。おい統吾。種岡が焼肉おごってくれるってよ。しかも食べ放題じゃない奴」
「は!?」
悟の言葉に体の体温が下がる。
ただでさえ統吾は大食いなのにそれを食べ放題以外の店で全額負担だなんて、想像するだけでゾッとする。
「それだけは勘弁してくれ!」
統吾が目を輝かせる前に慌てて悟ととめると、悟は腹を抱えて笑い出した。
「ほら、行くぞ」
からかうだけからかっておいて、悟はさっさと歩いて行く。
言わずもがな、すっかりしてやられた。
いらん疲労感に肩を落としながらプラットホームで電車を待つ。
早朝のためかプラットホームには俺たちしかいなかった。
駅内に電子メロディが流れ出す。
「もうすぐ電車来るね」
長い髪の耳にかけながら微笑む美波ちゃんに癒されつつ、俺は空を仰いだ。
綺麗な青空だ。
けれども雲もいつの間にか入道雲から羊雲に変わっており、夏の終わりを告げていた。
次に帰省するのは冬休みだろう。それまで、この街ともお別れだ。
「リョウ」
ふと、誰かが俺を呼んだ気がした。
誰もいなかったはずのホームに人がいたが、それを見たのもほんの一瞬で、ちょうど電車が来たことにより人物を確認することができなかった。
「種岡、行くぞ」
悟に呼ばれ我に返るといつの間にか電車の扉は開いていて、俺以外はみんな乗り込んでいた。
発車のアナウンスがプラットホームに響き渡ったので、俺も電車に乗り込んだ。
「じゃーね、リョウ」
車内に踏み込んだまさにその時、誰かに背中を押されるのを感じた。
振り向いたと同時に電車の扉が閉まっただけで、勿論、そこには誰もいない。
それでも俺は自然を笑みをこぼしていた。
「……またな、アキ」
届かないとわかっていながらも、俺は親友に別れを告げた。
窓から見える群青色の海はどこまでも続いていた。
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