柄沢悟と雨

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秋の連休中、俺は一人で滝峰村に戻っていた。 なんでも、叔母さんが俺の誕生日を祝いたいだとか。 もう20歳だというのに、いつまで子供扱いされるのだか。 そう言うと叔母さんに「20歳だからこそ、ちゃんとお祝いするのよ!」と苦言を言われた。 どうやら、幾つになっても俺は彼女の可愛い甥っ子のようだ。 昨晩は無理やり叔父さんに酒を注がれたし、飯は腹一杯になるほど食わされた。 こんなに騒がしい夜はいつぶりだっただろう。 それと比べて今は家には俺一人留守番だ。 叔父さんは仕事。 叔母さんは買い出し。 しばらくは一人で過ごすことになる。 昨日との温度差を感じながらも、俺は居間で寛いでいた。 外に出ようにもこんな田舎だと寄るところもないし、何より今日は大粒の雨が降っている。 こんな日は茶を啜りながら音楽雑誌を読むのに限るだろう。 久しぶりに訪れた休息を俺は有意義に過ごす。 …はずだったのだが、一本のインターホンでそれは取りやめとなった。 こんな雨の日に一体誰だろうか。 俺は読みかけの雑誌を食卓の上に置き、玄関へと急いだ。 玄関に映るシルエットは男だった。 俺はガラガラと古い引き戸を開け、来客を招く。 だが、その来客を見て俺の思考は停止した。 「よ!」 俺にとって招かざる客だったからだ。 目の前にいる男は、統吾に負けないような明るい金髪。 それにワックスをしっかりつけて立たせた短い髪のサイドには小さなピアスがちらついていた。 見事なまでのちゃらけた男だ。 それでいて長袖のシャツは一番上までボタンをしめ、薄めのマフラーを巻いている。 時期を先取りしたマフラーは置いて、その派手な外見とは似つかないしっかりとした服装だ。 なんだこの要らんギャップは。 俺はため息をついて、そのまま引き戸を閉めた。 「ちょっとちょっとちょっと! 久しぶりの再会なのになんだよその態度!」 男は馬鹿でかい声を発しながら、扉を閉めさせまいと間に手を突っ込んだ。 まったく、面倒臭い。
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