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扉を閉める俺と開くこいつ。
ガタガタとまるで地震のようにうちの引き戸が揺れる。
「ちょっとー、なんで閉めようとしてるのかなサット君」
力づくで押さえる奴はヒクヒクと引き攣った笑いを浮かべる。
「怪しい人は家に居れるなと躾られてきたので」
「それが久々に再会した幼なじみに対する態度かい? このドエス野郎…ていうか雨が酷いからそろそろ本当に家に入れて!」
踏ん張るこいつの顔を見るのも楽しいといえば楽しい。
だが、如何せん古い家だ。あまりやりすぎると扉が壊れるかもしれない。
懸念した俺は諦めて扉を手放した。
「のわ!」
急に力を抜いたので扉は勢いよく開き、そのまま奴はバランスを崩す。
「ちょっ! いきなり離すなよ!」
危うく転びかけた奴は相変わらず大きな声をあげる。
惜しい。
「お前、今惜しいとか思っただろ」
「よくわかったな」
「そりゃ、長い付き合いですから…って本当に思ったのかよ! ひでえなお前!」
ビシッと俺を指すこいつは最早半泣きだ。
おちょくるもの飽きたし、俺も鬼ではないのでそろそろこいつを家に入れてやることにした。
それに何よりこんなに玄関を開けっ放しにしていると、この雨で中まで濡れそうだ。
俺の頭では"玄関>>>こいつ"という方程式が成り立っていた。
「ほらよ」
俺はずぶ濡れの奴に洗面所にあったタオルを投げた。
「お、流石。気が利くねえ」
こいつはまるで風呂上りのようにゴシゴシと頭を拭いていく。
「お前の家に入るのもすっげー久しぶりだわ」
そう言って居間のソファに腰かけた。
こいつの隣に座るのも気が引けるので、俺は近くにある食卓の椅子に座った。
「…で、何の用だよ。"創一"」
食卓に頬杖をした俺は久しぶりにこいつの名を呼ぶ。
樋田創一。
それがこいつの名だ。
「さっきお前の叔父さんがうちに来たんだよ。んで、悟が帰ってるっつうからわざわざ来てやったって訳」
創一はつけていたマフラーを外し、そのままさっき渡したタオルを首にかけた。
なるほど、こいつを呼んだ犯人は叔父さんだったか。
しばらくのんびりできないな。
諦めた俺は思わずため息をついた。
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