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2年ぶりと言えども、話すこともやることもあの頃と何一つ変わりはしない。
たわいない話に花を咲かせる。
橋田先生のこと。
家に置いて来た弟のこと。
ただ、莉樹のことは深追いされたくなかったのでそっと流した。
そして話は4月のゴールデンウイークに遡る。
「てか、うちの店に友達と来たんだって?」
「ああ…友達が釣りしたいって聞かなくてな」
「でも、うちの親がお前にいっぱい釣られたって嘆いていたぞ。ちゃっかり元取りやがって」
創一は離れた俺に向かって肘で突つく仕草をする。
創一の家は滝の近くにある喫茶店を営んでいる。
ゴールデンウイークに統吾や種岡と一緒に行ったあそこである。
だからか、俺のこともどうせ筒抜けだ。
しかし、その店のお陰で小学生の時はたとえ母親がしょっちゅう入院や通院しても、親父の仕事が忙しくても、俺や弟は樋田家に置かせてもらっていたので大変助かっていた。
流石に弟は小さかったのでおばさんがこっそり抜けて車で迎えにきてもらっていたが、夏場だと俺と創一はよく歩いて店まで行ったものだ。
小学校から子供の足でおよそ一時間。
幼い俺たちにとってはその帰宅路が冒険だった。
ーー雨が強くなる。
すっかり気温が下がり、部屋も心なしか冷たい空気が流れている気がした。
俺はそっと創一と俺の分の茶を用意する。
「なあ、悟」
いきなり呼ばれた俺は、湯のみに茶を注ぎながら「ん?」短く返事をした。
「なんかさ、今日の天気ってあの時と似てるよな」
創一は窓に当たる強い雨粒を見ながら呟いた。
昼間なのに真っ暗な空は今にも雷が落ちそうだ。
「…そうだな」
俺は湯気がたつ湯のみを2つ持ちながら、片方を創一の前に置く。
人は小学校の思い出と言ったら一体なんて答えるのだろう。
運動会。学芸会。修学旅行。
たくさんのイベントがあったはずだが、少なくとも俺は違う。
きっとそれは創一も同じだ。
あれはちょうど10年前のこの季節。
村中が知ってる、こいつが起こしたある事件。
あの時もこんなような雨が降っていた。
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