柄沢悟と雨

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* * * 10年前と言えば、確か小学校4年生だったか。 相変わらず男子は俺と創一しかいないし、女子はアイドルに黄色い声援をぶちまけていた頃なのでつまらない日々を送っていたと思う。 そんな中でも創一は元気だった。 「悟ー! うちの店で遊ぼうぜー!」 まだ可愛げのあった頃の創一だ。 やんちゃ小僧の創一はいつも腕やら足やらに絆創膏をつけていた。 男の勲章という奴らしい。 俺はというと、典型的な無口タイプで、「大人しく真面目な子です」とよく通信簿に書かれていたものだ。 ただ、協調性の欄はいつも三角だった気がする。 当時は自分に霊感があることに理解をし始めた頃だ。 "自分はみんなと違う" "でも、このことを話すとみんなに嘘つき呼ばわりされてしまう" そんな不安を抱えながら生きていた。 だから、俺は他のクラスメイトと少し距離を置いていた。 深追いすればするほど、俺の体質がばれる確率が上がるからだ。 それは、幼少期ながらわかっていた。 しかし、創一はそんなことお構いなくズカズカと俺のプライベートに入ってきた。 しかし長い付き合いもあってか、不思議と創一なら嫌な気がしなかった。 「うん、いいよ」 他にやることもなかったし、俺は二つ返事で創一と約束した。 創一は荷物を置いてから俺の家に来ると言う。 俺も樋田家の店で遊ぶことが好きだったので、ランドセルをバタバタと浮かせながら走って家に帰った。 家に着くと母親が夕食の下準備をしていた。 あの頃は病気は発症していたものの、入院まではしていなかった。 俺は「ただいま」と一言言うとすぐさま2階の自室まで駆け上がった。 「おかえりー。忙しいわね」 エプロン姿の母親はお玉を持ったまま俺に微笑みかけた。 「創一と遊んでくる」 「あら、いいわね。でも、あまり遅くなっちゃだめよ」 そう言いながらも母親は手を止めて、俺にスナック菓子が入った買い物袋を渡した。 「わかってるよ」 ぶっきらぼうに返すが、俺も素直にそのお菓子を受けとる。 インターホンが鳴ったのはちょうどその時。 「悟ー! 行くぞー!」 むしろインターホンよりも大きな声で、創一が俺を呼んだ。
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