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「いってらっしゃい」
母親が和かに笑って俺の背中に手を振る。
さて、今日は何するか。
俺たちはわくわくしていた。
あの店の周りは広い駐車場もあるし、近くには河原もある。
それに釣りもできるし、本当に遊びたい放題だった。
玄関の引き戸を開けると、すでに創一は準備万端だった。
どこで拾ったのか右手には細長い木の棒を握りしめている。
「出発!」
創一は右手を高く掲げた。
創一を先頭に俺たちはてくてくと歩いて行く。
気分は正に探検隊。
特に調子に乗っていた創一は俺を引き連れ回しながら無駄に神社に寄ったり、山路に入っては「宝だ!」とその辺に生えているキノコや花を採取する。
おかげでいつもの倍の時間をかけながら、この長い道のりを進んでいた。
だがそれもまた楽しくて仕方がない。
俺自身も満更でもなかった。
ただ、俺たちもまだまだ子どもで、少しはしゃぐとすぐに疲れてしまう。
子供の足で1時間と言ったが、理由はこれだ。
ひたすら整備もされていない砂利道を上がるとなると、途中で休憩しないと体が持たないのだ。
それに、あの時はただでさえ寄り道が多かった。
「よーし…そろそろ休もうぜ…」
半分ほど来たところで俺と創一は草場に腰を下ろした。
へとへとになった俺たちは各々家から持ってきたお菓子を広げながら休息をとる。
ただ、そんな遠足気分でのんびりしていたのがそもそもいけなかったのだと思う。
それに、まだ子供の俺たちにはわからなかったのだ。
山の天気は変わりやすいということを。
ーーポツリ。
空から落ちてきた雫に、俺も創一も咄嗟に見上げた。
いつの間にか黒い雲が空を覆い隠していたのだ。
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