種岡亮太と滅びの村(仮)

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――世話になったな。 そう言って彼は私の両親に礼を言う。 父親は「もっと居てくれたっていい」というのだが、青年は首を振った。 彼だって帰るところはあるし、僧侶という仕事もある。 ――仕事も溜まってるんでね。ここらで帰らせてもらうさ。 ――それは残念です……しかし、我々はいつでもあなたを歓迎しますよ。 最後に父と握手をして青年は家を出る。 すると、家の外には村の大人たちも見送りに来ていて、彼を激励と共に囲み込んだ。 その様子を、私は玄関の影から見つめることしかできなかった。 たった数日。その短い間でも私は彼のことを兄のように慕い、尊んだ。 だが、私が彼についてそんな感情を抱いていることなど両親ですら知らない。 本当はきちんと別れの言葉を言いたかったが、こうしてたくさんの人が彼を取り囲んでいるとなるととても言えるような空気出なかった。 悲しみに眉尻を下げながら家の中へと戻ろうとする。 だが、そんな私の背中に青年の声が突き刺さった。 ――おい坊主、頼んだぞ。 その声に私は振り返ると青年は私を見て笑っていた。 そして私が深く頷いたのを確認すると、青年は手を挙げて私たちに背中を向けた。 それが、私が出会った不思議な青年の最後の姿だった。 それから私は彼の言いつけ通り神社にお参りに行った。 雨の日も、風の日も、雪の日も……いつか彼がこの村に来た時に「任務を果たした」と胸を張れるように。 そして一年、二年と時が流れる。 だが、青年がこの村に来ることはなかった。 あれだけ讃えられていた青年のことも、いつしか誰も口にしなくなった。 少しずつ、少しずつ、彼の存在が消えていく。 それは私も例外ではない。 あの斜に構える態度も、不敵な笑みも、声も、面影も、頭の中で靄かかったように霞んでいく。 私と彼を繋ぐのは、彼が託したあの約束だけだった。
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