―壱―

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私はよく覚えています。 あれは祖母の葬式でした。 線香の匂いが、ずっと服から落ちなくて。 私はまだ七つだったけど、あの時の事を本当によく覚えています…。 祖母が亡くなったのは、正午だったんですよ。 初夏らしく蝉も鳴きはじめていて 私が蝉を採りに外へ行っていて。 正午だったから、影が真下に在ったんです。 乾いた暑さの中、私は家へ向かってました。 本当によく覚えています。 私が家に帰ってみたら、母が電話でずっと話してるんです。 なんたって、お婆ちゃまが亡くなったんだとか… 私が祖母に会ったのは、七歳の時に思い出してみても 一、二回でしたから… あまり悲しみは有りませんでした。 むしろ、お葬式なんて初めてだから ちょっとした楽しみの方が大きかったんです。 お葬式に行くために真っ黒なお洋服を来て 母親に手を引かれながら、お婆ちゃまの家に向かいました。 頭の上から蝉の声が絶え間無く降って来ました。 足下には、今から始まる夏を通り越して あぶら蝉が一匹死んでいました。 けれど母親が手を引っ張って、ずんずんと前に行くので 私も早足に付いて行きました。
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