―壱―

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電車が止まり 祖母の家の在る町に着きました。 私の住んで居るとこより いくらか大きな町でした。 母が私の手を引き、歩き始めました。 私はもう、この暑さにうんざりしていました。 何時間か歩き、辺りは林のような風景に塗り変わっていました。 林の中は、駅の近くなんかより、ずっと涼しかったです。 絶え間無く、蝉時雨が降り注ぐのは 此処でも変わりませんでした。 そんな林の中を歩いていると 今までとは違う景色が視界に広がりました。 大きなお屋敷でした。 古いながらも大きな大きなお屋敷でした。 お婆ちゃまの家にはいくらか行った事が有りますが… こんなにも大きかったでしょうか? 玄関へ行き、戸を開けると 線香の匂いが鼻を付きました。 むわっとするような暑さが肌を撫でました。 玄関には、母より若い女の人が居て その人に広間に案内されました。 広間には真っ黒な服装をした人達が、皆首をうなだれて座ってました。 沢山居ました。 皆すすり泣いたり、鼻を押さえたり それぞれの悲しみ方をしていました。 熱気と線香の匂いが充満した広間 私は出来るものなら、此処には居たく無かったのですが 葬式なので仕方なく 座ってお経を聴いていました。 隣では母がうなだれ、泣いていました…。
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