四季来る

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「里の子?」 ハテナマークを浮かべる京助に、茜は説明した。 「山の麓(ふもと)に小さな村があるのは知ってるね。そこには、君と同じぐらいの子供たちがいる。雪占の所に住んでいると言えば、きっと遊んでくれるよ」 京助は肩をすくめた。 「どうして、その子たちと遊ばなくちゃいけないの?」 京助が茜を見ると、茜はぐしゃぐしゃになった京助の髪を優しく指ですいた。 「君には笑いが必要だ。君は十分眠ったようだからね。休息は必要だけど、取りすぎると動けなくなる。大人の中じゃ、君ものびのび出来ないだろうから、遊んでおいで。雪占には、僕から言っておくよ」 京助はなんと答えていいかわからなくて、また俯いた。 「怖い?」 椿の問いに京助が頷くと、そうねと椿は言った。 「新しいことは、何でも怖いよね。進まないといけないけれど、ここにいれば安心出来るような気がして。望まれて、願われて。受け入れても、拒否しても誰かは傷付く」 後半の言葉は、椿自身に向けて話しているようだった。 椿は京助に手を差し出した。 「怖がり同士、一緒に進んでみましょうか?」 京助は椿を見上げた。椿は微笑んでいた。 「ねっ、京助君」 京助は椿の手をじっと見つめた。 今の京助は、混乱している。どうしたらいいか、どうするのがいいのか。訳がわからない。 けれど、このまま眠っていても何も変わらないのはわかっている。 変わるのは怖い。取り残されるのも怖いし、一人で変わるのも怖い。けれど、誰かと一緒なら怖くないかもしれない。 京助は何度も何度も、椿の手と椿の顔を見て、そっと椿の手に自分の手を重ねた。 椿が優しく京助の手を握り締めてくれる。京助は、そっと握り返した。 それは、京助がやっと踏み出した小さな一歩。けれど、それは京助にとって大きな一歩だった。
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