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「あ--…。
まぁ…、程々にな…」
あまりにもストレートな志乃の物言いに、苦笑を漏らすしかない。
「大丈夫ですよ。
明日の仕事には支障が出ない範囲で楽しみますから。
そうじゃなくても、一実は御神会長の彼女みたいにタフじゃないんで」
「っ!かの…っ!?」
「久我先輩。タフでしょ?」
慌てる宥志をよそに、志乃が意地の悪い笑みを浮かべる。
「あれだけ好いガタイしてりゃ、何やっても壊れなそうっすよね。
羨ましいな」
「羨ましい!?」
次から次へと志乃の口から吐き出される言葉は、同性愛者歴の短い宥志には刺激が強い。
だが、そんな宥志などお構いなしに、志乃は喋り続けた。
「あ--…でも、身体は一実の方が柔らかそうっすね。
久我先輩、結構筋肉ついてそうだし…。
あ。もしかして御神会長、そこが良いとか?」
次々とマシンガンのごとく吐き出される志乃の言葉に宥志が唖然としていると、噂の征紀本人が寄って来た。
「どうしたの宥志?
なんだか顔が赤いみたいだけど」
「いや…、べつに何でもねぇよ」
「そう?
風邪でもひいたんじゃない?」
冬季合宿が始まったばかりだというのに初日から様子のおかしい宥志を、征紀は心配そうに覗き込んだ。
だが、征紀のそんな行為は、逆に宥志を追い詰めるだけで。
「ほんとに大丈夫?」
「っ!
…大丈夫だって言ってんだろ…っ」
思わず近くにまで寄せられた征紀の顔に、宥志が仰け反る。
「……宥志…?」
反射的に身を退いた宥志に、征紀が傷付いたような表情を浮かべた。
前はもっと押しの強い性格だったはずの征紀だが、なぜか最近は些細な事を気にするようになった気がする。
好きな相手の言動が気にかかるとか、行動が気になるとか、そういった恋心には、壊滅的に疎い宥志だ。
それでも、征紀の顔が曇ったことには気付いたらしく、しどろもどろに言葉を紡ぐ。
「あ--…、悪い。
そうじゃなくてさ…」
とは言ったものの、どう説明すれば良いものかと、宥志は頭を掻いた。
「そうじゃないんだけどさ…」
どう言えば誤解を招かずに説明できるのかと考え込む宥志の耳に、あっけらかんとした声が流れ込んできた。
「何照れてんすか、御神会長。
久我先輩の話してたって、はっきり言えばいいじゃないっすか」
「ばっ…志乃っ!」
言いよどむ宥志に、嬉々として食いついてきたのは、もちろん志乃。
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