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そしてその言葉につられるように、征紀は顔を輝かせた。
「え? 俺の話してたの?」
ついさっきまでの沈んだ表情はどこへやら。
自分の何を話していたのかと目を輝かせる征紀が、そこにいた。
普通、知らぬ間に噂されて喜ぶ人間はいないと思うのだが、征紀は気に留めた様子もない。
それどころか、好奇心すら発揮するから厄介だ。
だからこそ宥志は言いたくなかったのだが。
こんな事態に陥るのが嫌だった宥志は、恨みがましい目付きで長身の後輩を睨み付けた。
そんな宥志の内心に気付いたのか、はたまた野生の勘か。
なにやら面倒なことになりそうだとばかりに、志乃はちょうど通りかかった牧野の手を取った。
「え? 貴火?」
突然腕を掴まれて、牧野が訝るような声を上げるが、それには答えず、志乃はぺこりと頭を下げた。
「じゃ、そろそろ俺たち部屋に行くんで。
後ほど食堂で!」
「ちょ、貴火!?
すいません、会長。失礼します」
調子のいい笑顔を浮かべたまま、志乃は牧野の手を引いて会議室を出て行ってしまった。
二人が消えたドアを見つめ、宥志はため息を吐くことしかできない。
「あの野郎…、後で覚えとけ…」
「え?」
それこそ地獄の底を這うような声で宥志が呟けば、征紀が怪訝そうな顔を向けてくる。
言い放題言って逃げた代償は、近いうちに必ず払わせてやると、宥志は心に誓ったのだった。
「いや、何でもねぇよ。
それより、俺たちもそろそろ部屋に引き上げるぞ」
今や会議室に残っているのは、宥志を含め数人の生徒だけだった。
荷物の確認に手間取っているのか、数人で固まっている生徒に早く移動するように声を掛ける。
生徒たちが素直に移動するのを見届けて、宥志と征紀は会議室を後にした。
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