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統稜学院の生徒たちが宿泊する『オリエント・スノーパーク・ホテル』は、本館と新館の二つの建物から成っている。
本館の方は団体客専用の建物で、関東近県の学校の合宿やスキー教室でよく利用されていた。
新館は昨年リニューアルオープンしたばかりの新しい建物で、若いカップルなどに人気がある。
都心から数時間というアクセスの良さも、人気のポイントだろう。
ともあれ、総勢六百名を超す統稜の生徒たちは、本館二階のワンフロアを全て貸切で使用する上、三階の一部の部屋が生徒会と教師に割り当てられていた。
「エレベーターくらい付けろってんだよ…」
思わずそう呟いたのは、旅行鞄を片手にスノーボードの入ったケースを背負って階段を上がる宥志だ。
合宿やスキー教室といった学校行事の団体を受け入れる為に建てられた本館に、エレベーターなどという便利な代物があるはずは勿論なく、必然的に宥志は征紀と共に階段を登っていた。
その上、会議室や食堂といった公共の施設は全て一階に配置されている為、これからの五日間を想像するだけで気が滅入る宥志だ。
「まあまあ、大荷物なのは初日と最終日だけなんだし…」
そう言って苦笑する征紀もまた、宥志同様の大荷物を抱えている。
だが、百七十センチに満たない身長の宥志と、軽く百八十を超える長身の征紀とでは、同じ荷物の量でもその差は歴然だ。
宥志が愚痴を零したくなるのも、無理はなかった。
「それとも、エレベーター付けて下さいって寄付とかしちゃう?
寄贈、統稜学院生徒会とかって。
案外かっこいいかもしれないよ?」
「馬鹿なこと言ってんな。
そんな予算下りる訳ねぇだろ」
「宥志だったら出来るんじゃない?
何たって、予算ちょろまかすくらい朝飯前だもんね」
教師が聞いたなら目を剥くような会話を繰り広げながら、宥志と征紀は三階に辿り付いた。
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