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仕方がないとばかりに宥志はため息を吐くと、書類をファイルに挟み込んで立ち上がった。
分厚いファイルを小脇に抱えてバスから降り立った宥志は、クラスごとに整列している生徒たちの後ろを素早く移動した。
目指しているのは車列の最後尾。
教員用のマイクロバス。
生徒たちの乗ってきた大型バスとは別に、教師陣はマイクロバスでの移動となり、一切を生徒に任せるというのも統稜ならではの風習だ。
生徒主体を徹底している統稜では、こういった合宿の際にも教師たちは生徒に干渉しない。
生徒主体と言うよりは、単に面倒嫌いな教師が多いだけという噂もあるが、それは暗黙の了解ということになっている。
ともあれ宥志は、生徒たちが整列しているのを横目にマイクロバスの前でたむろしている教師たちの中から、養護教諭であり、今回の冬季合宿の責任者(名前だけ)でもある桜井翔(さくらいしょう)を呼び出した。
「桜井先生」
「おや? 御神君。
どうしました?」
どうしました? などと言って責任者の自覚ゼロの桜井を、宥志は些か白い目で見た。
「『どうしました?』じゃねぇ。
さっさと挨拶済ませてくれねぇと、会議室に合流できねぇんだよ」
教師に対してこんな言葉遣いでいいのかと思うくらい、宥志の言葉はぶっきら棒だった。
桜井の方もまた、そう思っているのだろう。
眉間に皺を刻みこんで何かを言いたそうにしているが、しかし桜井は宥志の言葉遣いについては何も言わなかった。
いや、正確には、何も言えなかった。
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