相続放棄

10/19
114人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
「そうですか。 ありがとうございます。 まだ事実かどうかもわからなくて」 「他には何か…」 妹が私に目で合図した。 あの話をするつもりらしい。 「あの…会社で何か 人間関係とかで トラブルはありませんでしたか?」 社長は事務の女性と目を合わせ 何かを確信したようにうなづき そして逆に聞いてきた。 「トラブルですか? 何かそういった事実があったんでしょうか?」 「実は 母は亡くなる数日前に 自分の姪っ子…つまり私たちのいとこにあたりますが その人におかしなことを言ってるんです」 妹はお葬式の後 親戚の人たちにひと通り 話を聞いたらしい。 その中の一人の話を言っている。 「どういうことですか?」 社長があらためて聞いてきた。 「何のことかはわからないんです。 ただ… 私がやったわけじゃないのに どうして私のせいになるのだろうとか みんなが私のことを 冷たい目で見るとか 信じられる人がいないとか…。 何の話?と聞いても いや、なんでもないと言葉を濁したそうです。 でその人は 母はなんらかのトラブルに巻き込まれて 濡れ衣をきせられたんじゃないかと言うんです」 「それがどうして会社の中のできごとだと?」 「母の人付き合いの範囲は狭いですから。 他には思い当たらなくて」
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!